主観の集合は客観である
 新しい給与制度は、極端なまでに成果報酬色の強かった従来の給与制度とは全く異なるものとなりました。それはすなわち「成果報酬型の給与制度はうまくいかない」との結論に達したということでもあります。

  2006年4月から導入した新給与制度は「成果報酬型」にかわって「価値観連動型」の給与制度としました。

  「価値観を給与の評価基準に組み込む」というアイデアは、給与制度を考え始めた初期段階からありました。ところが何ヶ月もの間、当時かかえていたさまざまな問題や課題も同時に解決できてしまうような仕組みの全体像は見えなかったのです。

  最後まで残っていた課題、それは「役職と給与の関係を分離できるか」というものでした。役職と給与が連動したままですと、容易に昇格・降格ができません。「昇格させてみたけれども、やっぱりリーダーには向いていなかった」というのでは、降格させた際に給与も下がってしまいます。一度上がった生活水準を下げるのは大変ですから、これでは降格させられた当人が金銭面でも困ってしまいます。

  私は、横浜の赤レンガパークでそのような話を高木としているときに、彼がノートに書き付けていた三本の平行線を見て『Six Members Valuation』という給与評価システムを思いつきました。

  私はこの図から「役職と給与の関係を分離しなければならない」という結論を導き出し、そして、その解決案を思いつきました。これで、何ヶ月もかけて考えてきた数々の課題の答えに加え、最後の課題に対する解決案も加えて、パズルのピースがすべてはまりました。

  ちなみに、高木が描いていた三本の線は、役職ごとに分かれた四つの給与レンジを表していました。私からは、一度上の給与レンジに上がると下の給与レンジには下がらないように見えました。それから、「どうやったら上の給与レンジに上がるのか」という基準を考えたり、それを評価したりするのが問題になるように思えました。

  人は、調子のいいときと調子の悪いときがあります。にもかかわらず、大きな案件が決まったり、なくてはならない存在になったりしたときに「では、君の給与レンジをひとつ上げよう」といって上げた直後から成果が出せなくなる人だっています。「昇格させたのは失敗だった」と嘆いても後の祭りです。一度昇格して給与が上がった人の中には、すぐに降格させられないよう既得特権を守るような行動をとる者もいるかもしれません。

  「上の給与レンジに上がれば二度と下がることがないならば、瞬間的にでも努力をみせて、給与レンジを上げてしまおう」

  そのような考えでよいはずがありません。基本的には継続的な努力のほうが大事なのです。

  こう考えていくと、レンジを作るのではなく、一定期間ごとに昇給額を決めて手にする給料の額が折れ線グラフのような形で増えていく(よほど評価が悪い場合には下がる)ようにするとよいのではないかと思いました。ではどうやって折れ線グラフのように昇給額を決めるのかということになるわけですが、ここで「価値観」を評価基準として含めることにしました。

  もともとの考えとして、「『LR HEART』をきちんと守れる人は成果も出せる」というのが私の中にありました。ここに、その人の仕事の「パフォーマンス」という評価基準も加えれば、うまくいくのではないかと思ったのです。

  この頃、給与制度とは全く関係なく、『LR HEART』をどれだけ守れているかを評価するための360度評価システムを、Web 技術を用いて製作中でした。

  「そうだ、あの製作中の360度評価システムで『価値観』と『パフォーマンス』を測れるように変更すればいいんだ」

  まさに、グッドタイミングでした。

  どんなに優れた評価基準を設けても、評価者によって評価は変わるものです。上司だからといってきちんと評価できるとは限りません。ですから、上司一人が部下を評価するといったやり方ではなく、「いっそのこと、上司や部下に関わらず何人かのメンバーから評価されるような仕組みにすればよいのではないか」と考えました。

  「評価者が何人かいれば、非評価者への評価もあるべきところに収斂するはずだ」

  評価する側のメンバーそれぞれの「主観」を信じ、その主観を集合させたもの、それはすなわち「客観」となります。

  「主観の集合は客観である」

  株式市場では、投資家が思い思いの価格で株式を売買しています。「主観」でつけた株式の売買価格が、結局のところ「客観」としての「株価」となっています。「人を評価するのもそれと同じではないか」「本当に正しい株価というものがないのと同様に、正しい評価というのはないのではないか」と思えたのです。

  「とにかくメンバーを信じる」
  「メンバーそれぞれの主観を信じる」

  それを前提とした組織運営を行うことにしました。

  私は、ライブレボリューションの厳格すぎるほどの採用活動を通じて加わったメンバーの人間性や善意を信じることにしました。そして、新しい給与制度のためのシステムは、メンバーによる主観的な評価を有機的に組み合わせて、信憑性の高い客観的な評価にできる仕組みを試みることにしました。この仕組みにすれば、給与評価のための管理職や人事の専門家が必要なくなるのではないかと思いました。

  前提として、新しい給与評価システムは、Web 技術を取り入れ、メンバーがブラウザから評価を入力すれば、自動的に集計できる仕組みを目指すことにしました。実は、それまで、何度か360度評価をやってみたことがありました。給与や昇格に一切影響を及ぼさないもので、アンケートレベルの扱いでした。ところが、一人ひとりに表計算ソフトに記入してもらい、それを回収して集計するだけで、経営メンバーの一人が3日も費やしていたのです。ですから、どうせ作るなら、集計も自動化させたいと考えていました。